「長らくマンション暮らしのため、家を『建てる』ことはもちろん、『戸建に暮らす』こともイメージがわかなくて・・・」と、当初は話されていたIさん。設計打合せが進むにつれ、「これちょっと読んでみてください」と、小説の一部や新聞のエッセイ、冷泉家のパンフレットにコルビュジェの作品集なども登場。好きな紅茶やテーブルコーディネートの話など、話題は多岐にわたり、楽しい打合せが続きました。ご自身が“これ”と思われたものを共有し、互いを知りあう時間を大切にしながら、ゆっくりとすすんできたプロジェクトでした。時間をかけキャッチボールする中で、住まいや暮らしのイメージを共に作り上げていきました。竣工時には「はじめての家づくり、楽しかった。贅沢な時間でした」と、嬉しいお言葉をいただきました。
敷地はすぐ近くに山を望む田園地帯。定年退職後、出身地であるこの地に居を構え、元々の住まいのある大阪と行き来しながら暮らすセカンドハウスです。弟さん宅の隣地を購入し、大阪で一緒に暮らしてきた高齢のお母様の見守りを、住まい手のIさんと、弟さん一家で共に担えるようにということでもありました。
15坪、ほぼ正方形のワンルーム。庭に向いた大きな開口のあるメインルームを中心に、玄関土間~水廻り~書斎~寝室が、緩やかにつながります。屋根を見上げると、垂木のリズミカルな表情が、まるで大木の下にいるような安心感を与えてくれます。玄関に設えた木製網戸からは、蛙の声とともに気持ち良い西風が吹き抜けます。
お引渡しから半年。窓からの山並みを眺めながら、好きな読書に耽り(ここにくると難しい本がたくさん読めるそう)、ワンルームの室内でありながらそれぞれのコーナーに好きな絵や雑貨をセンス良く飾り、庭の草花を生け、必要最小限かもしれないけれどこれで十分、そんな豊かな暮らしぶりがそこにはありました。
(写真説明文)
- 水田の向こうに外観を望む
- 玄関土間越しに室内をみる。外壁はカラマツの南京下見板張り
- こじんまりとした玄関を入るとこの光景。庭には実のなる植物が茂ります
- 寝室からメインルームをみる。パーテーションの向こうはキッチン
- 1坪の書斎コーナーと寝室。格子雨戸が日差しを和らげます